宴が終わり、片付けもひと段落した頃、鈴と男鹿は継正の元を訪ねていた。
理由は明白。真相を追求するためである。
「来ると思っていた。入りなさい、二人共」
継正の部屋の前に着くなり、中からそう声がかかった。鈴は戸惑いながらも倣い通りに障子を開け、男鹿もそれに従った。
「先程のことだろう?なぜ最前列にいなかった我らに、ことの真相がわかったのか」
鈴と男鹿は、黙って頷いていた。そんな二人を継正は興味なさそうに見つめている。
「理由は一つだ。男鹿殿、あなたと敵将の会話を聞いていた者がいたからですよ」
「申し訳ありません、男鹿様」
奥から姿を現したのは、他でもない、月秦だった。
鈴は驚かなかった。継正に情報を流す可能性のある人物は、優礼か月秦に限られる。そのどちらかと問われれば、簡単に想像はついた。
「何故だ、月秦。無断で情報を流すなど―――」
「そこまでにしましょう、男鹿様。責めるべきではありませんわ。……月秦は間違っていませんもの」
月秦を叱り始めた男鹿を、鈴はすかさず止めた。月秦は間違っていないと、そう確信できたからだ。
「鈴、何故止める。お前は父親を信用できるのか? 十年以上娘と連絡すら取ろうとしなかった父親を、父と呼べるのか!」
「―――この人を本当の意味で父と呼ぶのは、難しいです。それでも、血の繋がった父ですもの。ここは私の故郷です。故郷を救うためには、この人の協力は必要でしょう。この人が一言発しない限り、兵は動きません。男鹿様達だけでは限度があるではありませんか」
それは鈴の本心だった。
どのような経緯があったにしろ、継正が鈴と会おうとしなかったことは許せない。母の死も看取らず、娘は城から追い出し、それ以来文すら出さなかったことは、紛れもない事実である。けれど、事実が真実であるとは限らないのだ。
それに、男鹿たちのことも心配だった。三人では限度がある。たとえ麗花が参戦しても、戦いに慣れていないという麗花では、どこまで補佐できるかわからないし、女性である彼女にそんなことはさせたくない。
「―――君がそう言うなら、別に構わない」
男鹿はずっと見せなかった素の笑顔で、そう言った。
戦の準備から終焉、後処理までかれこれ三ヶ月ほど経過している。その間男鹿はその笑顔を見せることがなかった。少しでも気が緩まるときはあったほうがいい。これから先、何があるのかは、誰にも分からない。
「お願いがあります、お父様。……この国のために力を貸してください。勝利のためには、私たちの協力が不可欠です。そうでしょう?」