「どうした、鈴。せっかくの勝利の祝いだというのに、何を難しい顔をしている?楽しみなさい」
継正は既に酒がまわって酔っていた。あまりの急展開に何も感じないはずがないのに、お気楽で、鈴は思わず眉をひそめた。
「でも、お父様……。この勝利は―――」
鈴が言いかけ、それを男鹿が止めようとした、その時。
「分かっておる。今ぐらい楽にしなさい。今日くらいは、な」
継正は至極真面目な顔に一瞬戻ると、それだけ言って、席に戻っていった。
「―――さて、日も暮れたし、今日はお開きとするか。……皆、今回はよくやってくれた。気づいている者もいるであろうが、この度の勝利は、敵の策略のひとつだろう。この先蒼の国はきっと、再び我が国へ戦を仕掛ける」
疎らに、不安さを隠せない者たちの顔が見える。
「だが、我々にも味方はいる! この先何度戦いを挑まれようと、全て勝利するのみだ!」
継正が声を張り上げると、周りの臣たちも声を張り上げた。
隣で男鹿が目を見開いていた。継正とて、伊達に何度も戦を経験してきたわけではないのだ。敵の策略を考慮している。もしかしたら、最初から今回の戦はそういう戦だと察知していたのかもしれない。
「……やはり、人間は面白いですね。我々とは違う」
後ろで月秦が愉快そうに言った。滅多に笑わない月秦が顔を綻ばせている。
「―――ああ、そうだな。面白い」
いつの間にか男鹿まで笑顔になっている。鈴は何の話かわからず困惑していた。そんな様子を知ってか知らずか、優礼が理由を語り始める。
「これからが大変だというのに、よく自信を失わずにいれますね。しかも、我々を微塵も疑っていないとくる」
そこまで言われて、鈴は初めて男鹿たちが何を面白いと言っているのか理解できた。
確かに、継正にとって、男鹿たちは信用出来る存在ではなかったはずだ。それにも関わらず、先程の言葉で『味方』と挙げたのは、男鹿たちのこととしか考えられない。
(どれが、本当のお父様なのかしら。―――もしかしたら、私は本当のお父様を知らないのかもしれない。)
「姫様? どうなさいました? 体調でも――」
雑用に駆り出されていたのであろう、麗花と志津が揃って戻ってくると、麗花が声をかけてきた。
「いえ、大丈夫よ。考え事をしていただけなの」
それでも不安そうな顔をする麗花と、世話を焼き始めた志津を慰めながら、鈴は継正の姿を目で追っていた。
今まで共に暮らしたことのない父親の本当の姿を求めながら。