純白の勾玉と漆黒の花嫁

第3章 守るべきもの その4

 男鹿たちは会議に参加した後は鈴や麗花と顔を合わせることなく、そのまま戦へ出て行ったそうだ。
 相手は父が昔から毛嫌いし、対立し続けてきた蒼の国。
 紅の国は山間で、天候に恵まれたくさんの作物が取れる。飢饉なども大きなものはほとんどなく、民は安定した生活ができている。
 対して蒼の国は海があり、漁が盛んな国だ。ただ自然には限界があり、たくさん獲れる時と全く獲れない時と、どうしても収入に差が出るようである。
そんな相反する二国で、領主同士は敵対心を持ち続けてきた。
 それでも今まで表立って争うことはなかったのに、なぜ戦争に発展したのかと言えば、蒼の国で今年漁が不調になり、それまで上昇傾向だった景気が悪くなっ てきたためだ。蒼の国は国民のほとんどが漁で生活している。魚が獲れなくなれば、売ることもできなければ食べることもできない。領主は国民の生活が苦しく な る前に手を打とうと思ったらしい。
「―――大丈夫かしら」
「ご領主さまが負けるはずがございませんわ、姫様。姫様は旦那さまをお待ちしていればよいのです」
 鈴の不安げな呟きに、早口で返したのは他でもない、志津である。
  鈴の身の上を案じていたことは分かっていたのだろう。父が戦へ向かう前に呼び出したらしかった。少なくとも父は、男鹿について戻ってきた鈴を嫌煙せず、そ れまで鈴を毛嫌いしていた正妻も、腹違いの弟も、鈴を歓迎してくれた。少ししか話していないが、鈴が生贄になったことを少しは心配してくれていたようだ。 内心ではまだ毛嫌いしているのかもしれないが、そんな様子は表情には出ていなかった。
 母を失ってから、ずっと一人のように感じてきた鈴にとって、たとえ本当は表向きだけであっても娘のように接してくれた正妻の姿は嬉しかった。
 最初、正妻や腹違いの弟は、麗花のことを警戒していたが、もともと気さくな人柄なので、すぐに打ち解けていた。
「そうですよ、姫様。案ずることはありません。男鹿様がいるのですから、負けることなどあり得ませんわ」
 志津と麗花は二人で目を合わせてうれしそうに言う。もうすっかり仲が良くなったらしい。
 志津は最初は麗花が人間ではないことに警戒していたようだった。生贄の話は今では民のほぼ全てが知ることだという。男鹿たちの印象はあまりよくないのだろうが、もうそのようなことを忘れさせるほど仲が良いようだ。
「そうね、そうよね。わたくしはお待ちしていればよいのだもの」
 そう鈴が言うと、二人は安心したように微笑んで、それからは三人で他愛もない話で盛り上がっていた。
 それから1ヶ月、鈴たちは飽きずに毎日お喋りを楽しんでいた。

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