妄想少女と恋と。

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  04  

「なぁ、今度の集まり、行かないか? 俺も行くからさ。一度くらい、行っておこうぜ」
 小城に誘われて、有希夜は渋々参加することを了承した。すると不思議なことに、話しかけてくる人数が圧倒的に増えていった。
 あまり会話に慣れていない有希夜は、小城に助けを求めるように視線を送るが、小城は一切こちらを見ない。習うより慣れろ、ということなのかもしれない。
 そういえば小城から何度か、もう少し周囲を見ろと言われた気がする。妄想だけが取り得の自分に話したがる人などいないと、笑って一蹴したが、クラスメイトは以外に物好きが多いのだろうか。
「あの、有希夜ちゃん、って呼んでもいいかな? 紗智って呼んで? よろしくね」
 殆ど記憶していないクラスメイトの名前を、有希夜は必死で思い出す。必要最低限しか会話をしてこなかった有希夜は、苗字しか知らないことが多かった。彼女の苗字が直ぐに浮かび、名前は紗智だったのかと、妙に納得する。可愛らしい容姿に合う良い名前だと思った。
「ええ、もちろん。よろしくね」
 そういえば昔から、有希夜のことを、苗字で呼ぶ人は少なかった。有希夜があまり気にしなかったので、深く考えたことはないが、もしかしたらそんなに特徴的な名前なのだろうか。けっして読めない苗字ではないはずだが。
「有希夜ちゃんって―――」
 紗智が会話を続けようとしている。しかし有希夜は窓の外を眺めていた。何かいるのか―――そう思って外を見ると、そこには1匹のカラスが止まっている。
「紗智ちゃん! カラスが、実は大魔王で、いま私たちのことを観察しているのよ!」
 紗智は何も臆せずに、黙って有希夜の妄想を聞いている。小城が驚いた顔をして紗智を見つめながら、気の毒そうに離れていった。
 しかし紗智は、一切応じない。妄想を言い終わって上機嫌の有希夜に、たった一言切り捨てた。
「それは妄想。分かった? カラスはカラスだよ?」
 その微笑みはとても恐ろしいほど美しい。笑いながら怒るとこうなるのか、と思いながら、有希夜はただただ頷いた。
 その美しさに見とれていて、結局何のことなのかは聞いていなかった。
「さて、有希夜ちゃん。……今度の集まりの話をしましょう?」
 その恐ろしい微笑みのまま、紗智はゆっくりと、言葉を並べていく。
 有希夜は一切逆らうことができず、ただただ頷き続けていた。


「うん、うん! バッチリだね、有希夜ちゃん!」
「紗智ちゃん!? 最初からそれ目当てだったのね!」
 紗智に連れられるまま洋服を買った有希夜は、当日は行かないことにしようと決めていた。その服で行ける自信が無かったのだ。なのに。
『はい、準備しましょうね』
 洋服を買った日、荷物を運ぶ為に付き添ってきた紗智は、有希夜の自宅も知っている。当然のように、当日やってきて、着せ替え人形の如く有希夜の服を着替えさせる。
 羞恥心はある。が、すでに学校の体育の授業でも着替えの姿は見られているし、隠すまでもないだろうと言われると、言い返す言葉もなかった。
「ねぇ、嫌よぅ。こういうのは紗智ちゃん見たいな可愛い子が着るもので、私みたいなのが着ていいものじゃないでしょ?」
「大丈夫。さぁ、行きましょうか」
 紗智は有希夜の「行きたくない」コールを完全に無視して、引きずるように外へ連れ出していった。娘が嫌だ嫌だといっているのにもかかわらず、有希夜の母は笑顔で有希夜を見送っていたのである。
 この紗智のこれらの行動の意味を、この時の有希夜は全く理解できていなかった。
 その行動の意味を彼女が理解するのは、まだ少し先のこととなる。
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