「ねぇ、どういうこと? 何で何の進展もないのよ!」
時計はまだ朝の5時を示している。きっと昨晩は仕事をしていて、徹夜明けなのだろう。いつもとは違う姉の威勢のよさは、きっと深夜のものに違いない。昔から姉は、徹夜をするたびに何かと静貴にあたってくる所がある。そのときの姉は決まって気分が高揚していて、威勢が良い。
「姉さん、彼女は護衛対象なだけです。それ以外の―――」
出来るだけ淡々と、静貴は答えた。感情的になってもこの姉には通用しない。それは静貴が一番良くわかっているのだ。
栞那を屋敷に招き入れたあの日から、彼女とはほとんど会話がない。というのも彼女はあまり部屋から出なかったし、異性である静貴が仮にも客人の彼女の部屋へ、気軽に尋ねることは出来なかったのである。
「……だからといって、あえて避ける必要も無いでしょう。いいですか、この屋敷にはあなたの他に、若い者はいません。あなたが避けていたら、彼女は独りになってしまう。ただでさえなれない環境で、孤独な想いをさせるつもりかしら?」
何も反論できずに、静貴は黙り込んだ。静香が言いたいことも、彼女の心配もよく理解している。彼女にとって栞那は守るべき存在なのだ。それは身体だけに限らない。
夫のため、という部分は強いだろう。だが彼女にとって栞那の孤独は
だからといって、気軽に静貴が関わっていいような相手でもない。栞那は遠藤の唯一の孫娘。遠藤の影響力は、表裏関わらず、未だ高いままだ。それに東條家の一員である静貴が下手に彼女に近づけば、周囲は関係を誤解するに違いない。―――遠藤と東條が和解した、と。
かつて遠藤の娘が亡くなったとき、その護衛を務めていたのは東條の者だった。それ故か、それから遠藤の東條家に対する態度は冷たい。今回こちらを頼ってきたのは、栞那のためだろう。遠藤の家には若い者が全くいないのだ。少しでも年若い者が多いこの屋敷の方が、栞那も溶け込みやすいと思ったのかもしれない。
「……こちらが下手に近づけば、また反感を買うでしょう。姉さんはまた同じ道を歩ませるつもりですか?」
「静貴。遠藤様だって、いつまでも子供じみたことはされないわ。第一、この屋敷に彼女を預けた時点で、周囲はもう勘違いしているでしょう。そんなことは承知の上で、遠藤様も彼女を預けたの」
そういえば、栞那はどうやってこの屋敷に来ただろう。裏口からコソコソとやってきただろうか。否、普通に正面からやってきたのだ。その時点で、既に周囲は勘違いしまったかもしれない。
静香は子供をあやす様に、ベッドに座る静貴の目線に合わせて座り、じっと目を合わせた。
「いい? 守りたいなら自分で守りなさい。屋敷に頼っていたら、絶対に失ってしまうわ」
まるで狂った時計が繰り返し秒針を進めて戻すように、その静香の台詞がずっと頭の中で
2014-10-19