日の当たる
静貴の屋敷は祖父の屋敷よりも広いように感じていた。実際は祖父の屋敷の方が
「こんにちは。今日も読書かな」
ふと顔をあげると、静貴が目の前に座っていた。
書庫には長い机が一つあり、椅子がいくつか並べられているほかは、ほとんど本だけである。唯一あるのは持ち出しリスト。持ち出すときには書くようにと注意書きが添えられていたが、使用人の話では、ほとんど書くことが無いので、屋敷から持ち出さないのなら書く必要は無いでしょう――――とのことだった。
「こんにちは、静貴さん。どうされたんですか?」
栞那はいつも通り微笑み返した。彼は少し戸惑った様子で、栞那に応えた。
「君をひとりにするなって、姉に怒られてね。君の邪魔になると思ってあまり来なかったのだが、たまには書庫で読書するのも良いだろうと思って」
そういえば静貴は、栞那がやってきてからずっと屋敷にいる。栞那と同じくらいの年であれば、まだ学校に通っている年齢のはずだ。
静貴は手近な棚から一冊本を取り出して、中を
じっと栞那を見つめている。栞那は照れくさくなって、新しく話題を振る。
「静貴さんは、学校はどちらに?」
「ああ、去年卒業したよ。海外の大学をね。うちの姉弟はみんなそうなんだ。母が帰国子女だったものだから」
母親が海外で生活した経験があるのなら、子供にそれを知ってもらいたいと思っても可笑しくはないだろう。海外での生活は子供のためにもなる。これからは海外との交流が大切になってくるだろう。
「お姉さんがいらっしゃるんですね、静貴さん」
「ああ。2人ね。男は僕一人。……よければ、さん付けはしないで呼び合いたいんだけど」
変わらぬ笑顔を保ちながら、静貴は栞那を見つめていた。栞那は一瞬目を大きく見開いて――――そして
今まで周囲には年上がいることが多かった。そのため知らず知らずのうちに敬語で話す癖がついていたのだ。けれど栞那はもう学生ではないし、敬語でも問題がなかった。静貴に対してもそのままでいいのだと思い込んでいたのだが。
「ちょっと、照れくさい気もしますけど」
「慣れれば大丈夫だと思うよ、栞那も」
違和感などないだろうという静貴の言葉通り、栞那は全く違和感無く、言葉遣いを改めることができた。
今までに感じることのなかった感情が芽生えたことには、気がつかないまま、時は過ぎていった。
2014-11-09