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「彼女が亡くなったことで、組織は存続の危機に陥ります。当時あの組織は殆ど活動しておらず、彼女の働きで存続していた。当時は“表”でも活躍している者が多かったようですね。ですから普段は彼女が任務に就いていて―――彼女の死によって、組織は変わりました」

 まるで眠れぬ子供に絵本を読むように、静貴は優しい口調で言葉を連ねている。

 普段は普通の社会人であり ながら、影で活動する者は少なくない。表の姿があってこそ、情報は集めやすいからだ。何の仕事をしているか分からない者に、情報を話す人間は少ないが、仕 事内容のはっきりしている者には口を滑らしやすい。もちろんこれは確立の話。誰にも話さないような、口の堅い者は実際にいる。

 けれどあの組織にはそのようなものはいなかった。情報のやり取りだけで、主は全ての”情報屋”を養っていた。それだけ割りのいい仕事をしていたのだろうと気にしていなかったが、あのお金はどこからきていたのか。

 組織には主に2種類ある。副業として少々情報屋をやっている組織と、そうでない組織だ。副業としてやっている組織には、“表”の顔を持つ情報屋が集まる。そしてそうでない組織には、専門の者が集まるのだ。

 今まで栞那は、組織はその中間であると思っていた。昼間にはみな外へ出て行くことが多いから、それは“表”の仕事だと信じていた。―――だが。

(あの組織は、正真正銘、“裏”だけで成り立っている)

 ということはきっと、組織に金を融通する者がいるのだろう。一体それは誰なのか。

「組織は、誰が操っているのですか?」

「……あの組織にあの主以外の何者かが融資していることは、間違えないでしょう。ですがこれ以上は分かりません。ただ」

 静貴が手に持っていたアルバムを勢いよく閉じると、栞那をまっすぐ見据えた。

 何か口を開きかけて、彼は再び口を閉じた。

(何を、隠しているの?)

「いえ、今はやめておきましょう。賢い貴方なら、自分で気づくでしょうから」

 賢い、という部分を強調して、静貴は席を立った。

 するとやがて使用人が顔を出した。静貴と栞那に一礼すると、彼女はゆっくりと言葉を並べる。

「お部屋の準備が整いましたので、ご案内いたします」

「いや、僕が案内するから、もう下がっていいよ」

 使用人は驚く素振りも見せずに再び頭を下げ、失礼します、とゆっくりとした口調で告げて、部屋を辞していった。

 すぐに静貴に案内されたものの、それから彼との会話はなかった。

2014-10-11

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