The End of Summer

振られる

「―――真子、ちゃん。昨日はごめん、あの……」
「和幸くん。もう、サヨナラしようか」
「真子ちゃん。本当にごめん。でも、菜々ちゃんとはずっと連絡を取っていないんだ。それは本当だよ。履歴は消えちゃったから、証明することはできないけど……。真子ちゃんに知られて困ることなんて、この携帯には何もない。もちろん消したりもしてないよ」
 落ち着いて考えてみて、分かったこと。全ての原因は、自分にあったのだと。
 それを口にするのは憚られて、真子は、ただただ別れを切り出すことしかできない。
「もう、いいの。私、もう和幸くんのこと言えないから。自分で蒔いた種だったんだから。ごめんね、和幸くん。もう、終わりにしよう」
「真子ちゃん」
「ごめんなさい」
 宥めようとする声は、いつもに増して優しい。けれどここで甘えてしまったら、自分の過ちを見過ごすことになってしまうだろう。そんなことはできなかった。
 すると公園のむこうから、見知った男性が駆け寄ってくる。真子の相談相手であり、和幸の兄である人物―――和真(かずまさ)だ。
「ん? あ、真子ちゃん! 久しぶり。昨日は返事できなくってごめんな」
「あ……和真さん。こちらこそごめんなさい」
「なんだ、まだ喧嘩してんのか? ちゃんと仲直りしろよ?」
 真子を通して大体の経緯を聞いている彼は、きっと真子が相談している事を知っていると思ってるだろう。真子も思い出すまで、彼と知り合ったことを、和幸に告げていなかった事実には気がつかなかったくらいだから、違和感などないはずだ。
「もういいんですよ、和真さん。全部、私が悪いんです。私が―――」
 黙っていたから。そう続けようとした声は、和幸のそれによって遮られる。
「真子ちゃん。何で、兄さんのこと知ってるの? なんで黙ってたの」
「それは、あの……」
 後ろめたいことがある真子は、声に出す勇気がなかった。先日怒りに任せて彼を怒って、今日別れ話までしているのに、この事実は彼を勘違いさせることでしかないだろう。
「和幸、そんな言い方は」
 和真が和幸を宥めようとするが、既に和幸は怒りを顕にしていた。
 優しい彼の顔は、もう面影がなかった。昔はこういう人だったのだろうかと思いながら、元に戻してしまった自分に嫌気が差していた。
「兄さんは黙ってろ! 君だって同じじゃないか。結局君が見ていたのは、僕じゃないんだろう」
「和幸くん、これは」
「もういい。終わりにしよう。やっぱり遠距離恋愛なんて、無理だったんだよ」
「ごめんなさい、聞いて? 本当に」
 特別な関係ではないの。和幸くんと菜々のような―――。
 そう言おうとして、口を閉じた。そんなのは言い訳にもならない。彼を責めたのに、自分も同じことをしていたのだ。
「もう、終わりだよ。全部」
「和幸! 人の話は聞けって! 真子ちゃん、あの……」
 必死に二人の仲を戻そうとする和真を止めて、真子は言った。
「ごめんなさい、和真さん。でももう、いいです。私が、悪かったんです。一方的に彼を責めて、自分の責任を押し付けてしまったから。それに、彼にはもっと、相応しい人がいます。行ってください。和幸さん、きっとしばらく閉じこもろうとすると思うんです。私は行けないから……」
 少し不満げな顔をしながらも、弟の性格を分かっている和真は、そのまま後を追っていった。