The End of Summer

憂う

 なぜあんなに怒ってしまったのだろうと、バスに揺られながら、真子は後悔していた。彼からしてみたら、楽しいはずだった思い出話が汚されたような思いだろう。彼は別に、真子が自分を変えたのだと思っていただけのはずだ。そこを突いて不満をぶつけた自分は、どれだけ心が狭いだろうか。
遠距離恋愛は難しいのだと、頭ではわかっていた。けれど自分たちは大丈夫だと、心のどこかで思っていたのかもしれない。
呆れられてしまっただろうか。もう、元には戻れないだろうか。そんな後ろ向きな考えばかりが頭に浮かんでくる。ただの喧嘩が、喧嘩どころではなくなってしまうのではないかと、そればかりが頭を過ぎった。
「どうしよう……菜々はダメ。俊明くんも、早妃ちゃんも、相談できない」
 菜々も俊明も、早妃だって、和幸とは連絡を取り合っているだろう。頻度は少なくても、彼らはいつでも連絡を取り合えるのだ。板挟みにするのは申し訳ない。
「どうしたんだろう。そんな細かいことまで気にしてしまうなんて」
 もしかしたらふとした世間話の拍子に菜々から聞いたのかもしれない。別に二人の間に特別な関係があるから知っているわけではないだろう。それ以外の可能性だって十分あるし、心配症な和幸のことだから、黙って探っていたのかもしれない。
 そんなこと、気に求めてなかったはずだ。なぜあそこまで、急に怒り出してしまうのか、自分でも自分自身がわからなかった。
 和幸との仲を疑ったことはない。けれど、友人が重なりすぎて、気軽に相談できる相手がいないのは事実である。それが積もり積もって、今日につながったのだろうか。
 和幸を責めながら、真子は、ある人に連絡していた。和幸と縁は深いが、連絡はあまり取り合わない人物で、真子はよく相談していた。
(彼に相談している私だって、和幸くんには彼のことを黙っているのに。怒れる立場じゃないのに)
 すべてが壊れてくような、そんな恐ろしい感覚に、真子はただただ、自分の行動を悔いていた。