The End of Summer

待つ

 和幸は元々、容姿は良い方だった。それは真子も同じだが、真子と和幸では、決定的な違いがある。それはそれを理解しているか否かだ。真子はあまり自分の容姿にこだわりがないようで、容姿の良さを理解していない。もちろん、そんな無頓着で天然な所も、和幸は好きなのだが、それは自分の昔を思い返すことがあるからだ。
和幸は昔、人を見かけで判断していた。それは清潔であるかどうかとか、そういう常識的な視点からではなく、自分のそばにいることが相応しいかどうかという、人としては最低な視点であった。 そのためか、和幸は性格の悪さを噂されることもあったし、自分でも自覚していた。それでもいつまでたっても、その考え方を変えることはできなかった。
 ある日、塾で話しかけてきた少女が、真子の親友の菜々だった。和幸が時折写真を眺めている事を知っていたのだろう。もしくは、それを噂に聞いたのかもしれない。
「あの……写真、好きなの? もしかして、写真撮ったりしてる?」
 最初はコイツも恋人枠狙いかと、呆れていた。彼女がいないと知ると、そうやって言い寄ってくる同年代の異性は少なくなかったから。だから彼女もそうであるのだろうと勝手に思っていたのだ。
「そうだけど……君に関係ある、そんなこと?」
 和幸が冷たく返すと、彼女は少し困った顔をしていた。それもそうであろう。実際は見当はずれで、ただの親切心と、少しの好奇心―――なぜ周囲から悪く言われるのか知りたかったらしい―――で話しかけただけだったのだから、戸惑って当然だ。
「いや、友達の住んでいる町がね、少し田舎なんだけど、とても風景が綺麗なの。いつも、写真を見ているから、もしかしたら撮ったりもしているのかと思って。良かったらって……迷惑ならごめんね。本当に、お節介だとは思うんだけど」
「いや、こっちこそごめん。えっと、それってどこ?」
「えっと、駅から××番線のバスに乗って、○○っていう停留所で降りると―――」
 菜々から教えられた行き方をメモし、念のためとSNSアプリののIDを交換した。今多くの学生達が使っているアプリだ。菜々に情報に対するお礼を言うと、驚いた表情を浮かべている。自分が感謝の言葉を言うのは、それほど珍しいことなのだろうか。
「安心して。勝手にIDを広めたりしないよ。そこまでして人気者になろうとか、思ってないし、これが目当てで話しかけたわけじゃないから」
「疑ってないよ。そもそも疑ってたら、IDなんて教えない」
 無料でメールアドレスを取得する方法もあるのだから、万が一の場合に備えるだけなら、別にメールアドレスを教えればいい。幸い和幸の携帯は、簡単に無料メールアドレスを設定できるのだ。
「よかった、思ったより普通なんだね」
「え?」
「ううん。ちょっと聞いていたより、普通だなって。それじゃあ、また。迷うことはないと思うけど、もし迷ったら連絡してね」
 それは一体、自分はどんな噂をされているのだろう。性格が悪いのは承知の上だったが、なにか異常な存在にされているのだろうか。
 彼女が自分の汚名を晴らす手伝いをしてくれるだろうかと考えたが、言うまでもなく、彼女はこの会話を周囲に伝えるだろう。彼女のように、下心はないけれど話しかけられないという者もいるのだろうか。同性でも友人と呼べる人物は少ない。これから少しずつ、自分を変えていかなければならない。
「ああ……」
 これまで変えることのできなかった考え方を、改めることができそうで、和幸は驚いたのだった。