The End of Summer

騙す

「―――もう、8月だね。」
 俊明がそう言ってきたのは、7月最後の日だった。
 その日は俊明の誘いで公園を訪れていた。気温は高く、日差しも強い。日陰を探して回っていた。
「そうだね。……あっという間だったね。」
 真子はなんと言っていいかわからなかった。俊明が何を求めているのかは分かっていた。けれどそれにすぐに答えられないというのが、真子の正直な想いだった。
「決心はついた?」
「ううん。……ただ、毎日が楽しかった。それだけだよ。」
 俊明はベンチに腰掛けると、隣に座るように促した。真子はその通りに隣に座る。
「それなら―――。」
「ひとつだけ、聞いていいかな。俊明くんは早妃とも付き合ってるんでしょう?」
 真子は胸の奥でずっと留めていた、その疑問を投げかけた。直接的な証拠は何もない。けれど真子には確信があった。
「何のこと? 俺には真子ちゃんだけだよ。」
「それなら……なぜ、早妃と2人で遊んでいるの? 堂々とネットで流して、私が気づかないとでも思った? 噂ってね、人伝いにも聞こえるの。もうやめて。騙すのも騙されるのも嫌なの。」
 真子はあまり機械の扱いに慣れておらず、いつも周囲から教わることが多かった。ある日、他の友人にスマートフォンの使い方を尋ねている時に、その話を聞いた。
『真子ちゃんに言うべきかどうか悩んだんだけど……これ見てくれない?』
 そこに写っていたのは、二人の睦まじい写真の数々だった。思えば、ふたりの行動にも、おかしな点はあったのかもしれない。熱くなりかけていた想いが、一瞬にして、冷めていくのが分かった。
『ごめんね。やっぱり、見せるべきじゃなかった。でも、遅くなる前に言っておきたかったの。―――今なら、まだ大丈夫かと思って。』
 以前、8月末の出来事を話したことがあった。真子の想いを知っていたからこそ、まだ引き返せる時期に伝えたかったのだろう。
『ううん、ありがとう。これで、決心がつくから。』
 和幸を忘れられそうだった、矢先の出来事だった。
 自分には幸せは来ないのかもしれない。二人の友人の裏切りは、真子にとって大きな痛手だった。
「違うんだ。これは―――。」
「楽しかったよ。このまま夢を見ていたいとも思う。でも、もう終わろう。駄目なんだよ。」
 溢れ出そうな涙をこらえて、そのまま立ち上がった真子は、止めようと叫んでいる俊明を振り払って駆けていった。

――――He doesn't always make me happy.
    彼がいつでも私を幸せにしてくれるとは限らない。
――――Still, I wanted to believe.
    それでも、信じていたかった。