The End of Summer

悩む

「ねぇ、真子ちゃんは彼氏いるの?」
 真子が念願の地元大学に進学し、同じように菜々も志望校に合格してから、二人は連絡があまりとれていなかった。というのも、菜々は大学生活を満喫してい るようだ。新しい友人もでき、サークル活動を始めたので、必然的に二人の時間が合わず、連絡が続かない状態になってしまっている。途絶えているわけではな いので、真子はただ菜々の体調が心配だった。
「いないよ。どうして?」
「付き合わない? 俺と。」
 大学生となってから、真子にも新たな友人ができた。それは高校の時にはいなかった、異性の友達も含まれている。彼の名は俊明といって、都会出身だが、気さくで話しやすい人だった。
「真子には待ち焦がれてる方がいるんだから! あんたなんかの誘いは受けないよ。」
 真子が対応に困っていると、友人の早妃が威勢良く反応した。早妃には、あの夏の日の思い出を、一度だけ話したことがある。菜々には言えなかったのにも関わらず、言ってしまったことには後悔しているが、バレてしまったものだから仕方がなかった。
 けれど問題なのは、彼女が菜々以上にお喋りだという点だ。菜々も感情的になると人の秘密さえ喋ってしまう癖があったが、彼女の場合はそれよりも酷かった。
「でもさ、それ会えるかわからないんでしょ? 真子ちゃんのことだから。」
「―――どういう、意味?」
 俊明の思わぬセリフに、真子は一瞬、頭が真っ白になった。
「だって、本当に会えるとわかっているなら、もっと明るい顔してると思うけどな。気づいてない? 真子ちゃん、俺らが恋愛話するたびに落ち込んでるって。」
 気づいていなかった。いや、そんなつもりはなかったのだ。けれど心のどこかで、あれはただの冗談なのではないか、もう二度と会えないのではないかと考えて、そのたびに落ち込んでいた。
「……今年の夏なの。8月31日に、また会おうって言ったんだけど。ただの口約束だし、相手には恋愛感情なんてないだろうから……。」
「別に、それまででいいからさ。お試しで付き合ってみない? 別特別関係が変わるわけじゃないって。」
 早妃が不満そうに口を尖らせている中、俊明の顔はいつも冗談を言っている時とは違った、真剣なものだった。
(……縛られている必要はないのかもしれない。)
 和幸への想いは消えないのだろう。夏の終わりになるまで、その想いはどこかで残り続けるに違いない。けれど真子自身が、心の支えを必要としていることは分かっていた。
「そうだね。それもいいかもしれない。」
「ええっ、私だけ独り身!? 嫌だよ真子ちゃ、置いてかないで……。」
「ただのお試しだって。早妃ならすぐにいい人見つかるよ。」
 お試しだと言いながら、高まっていく胸の鼓動に、真子は戸惑いを隠せなかった。
「これからだな。」
 俊明が後ろでそうつぶやいていたことを、真子は知らない。