8:新たなる出会い

 フェリシテがアベルに腕を引っ張られて、連れられた先にあったのは広間のような部屋だった。幾人かの姿が見えるが、彼らの装いはロドルフやシモンとは違い、フェリシテと同じ質素なものが多いようだ。こちらに見向きもせず、各々本を読んだりお茶を嗜んだりと、装いとは打って変わって優雅な過ごし方である。
「あ? なんだアベル、そいつ新人か? ちょうど良かった、お茶を頼む」
 男がそう言いながら指差す先にあるのは、道具一式である。フェリシテは家でやっていたようにお茶を入れ、差し出した。
 男がそれを受け取ろうとするところを邪魔するように立ちはだかった女性が、変わりにお茶を受け取り、フェリシテに微笑みかけた。フェリシテは微笑み返すと、カップを取り出してお茶を注ぐ。すると女性が男を睨みつけていた。
「セザール、人に物を頼む前に、名乗ったらどうなの? いらっしゃい、フェリシテさん。ロドルフさんから話は聞いてるわ。その馬鹿がセザールで、私はリアよ。そっちで黙って本を読んでいる堅物がユーグっていうの。頼りない男共だけど、仲良くしてやってね」
 セザールにお茶を渡しながら、フェリシテは戸惑っていた。堅物といわれたユーグは不満そうな様子だ。セザールももちろん、リアに邪魔されて不機嫌なようだった。
 ユーグは持っていた書物を閉じると、カップを手にして立ち上がる。フェリシテはその手からそっとカップを受け取ると、固まってしまったユーグをよそにお茶を注いだ。あまり長い間入れたままにすると、冷めて美味しくなくなってしまうので、フェリシテは急いだだけだったが、ユーグを困らせてしまったらしい。
「すまない。そんなつもりはなかったんだが」
「いいえ、ついでですから」
 カップを差し出しながらそう微笑み返すと、ユーグは苦笑している。他人のために動くことには慣れている。それにせっかくの茶葉を台無しにするのは惜しい。アベルと2人分を注ぐとちょうどお茶は無くなった。アベルのためにミルクと砂糖を入れて混ぜると、アベルは空いた席に座ってお菓子を広げていた。少し離れた席にいた3人も集って、お茶を嗜んでいる。ちょっとしたお茶会になるようだ。
「フェリシテもおいでよ! 片付けは後でセザールがやるから。このお菓子美味しいんだよ」
「早くしないと、セザールが平らげてしまうぞ」
アベルとユーグに続けて冷やかされたセザールは、決まりが悪そうに顔を背けながら、「やればいいんだろ」と少々自棄になってつぶやいた。そんな3人の様子を微笑ましく見届けながら、フェリシテも席に着いた。