6:対となる幼子

 二人の話が少々雑談となっていくと、見計らったように足音が聞こえる。するとまだ小さい男の子が、扉から首を出してこちらを覗いている。まだ幼い顔は可愛らしい。
「シモン? 他に誰かいるの?」
 フェリシテの姿が目新しかったようで、不思議そうな声で尋ねている。それはそうだろう。知らない人を見かければ気になってしまうのは、子供の性だ。
「ああ、ちょうど良かった。今日から入るフェリシテだよ」
 すると座ったままのフェリシテに近寄ってきて、上目遣いに見つめてくる。子供の目はこんなにも純粋で、綺麗なのだろうか。彼の目はじっとフェリシテを見つめていた。そして微笑み、フェリシテに抱きついた。
「お名前教えてくれる?」
 フェリシテには、腹違いの弟妹がいた。彼らは継母が目を離す隙にやってきては、フェリシテに抱っこやおんぶを要求したものだ。懐かしくなって、フェリシテは男の子の背に手を回した。
「アベルだよ! お姉ちゃんも、花憑きなんだね」
「そうだよ。アベルくんはいくつなの?」
 フェリシテが調子よく答えてくれたからか、アベルは嬉しそうだ。その無邪気な笑顔を見ると、弟妹たちは元気だろうか、義母は家事を出来ているのかと心配になってくる。
 フェリシテが考え事をしていると、アベルが指で何か数えている。自分がいくつかを数えているのだろう。弟妹たちもよく、客人に歳を聞かれたときにやっていた。
「えっと……8歳だよ。お姉ちゃんは?」
「お姉ちゃんは17だよ」
「じゃあ、シモンと同じだね。お姉ちゃんって呼んでいい?」
 可愛らしい大きな瞳で見つめてくる。頷きながら、そんなアベルを抱き上げた。膝に座らせると、嬉しそうなはしゃぎ声。フェリシテはおもわず笑みを零した。
「こら、アベル、静かにしなさい。まったく……」
「あら、言われなくてもきちんと静かに出来るよね、アベルくん?」
 シモンがあまりにも真面目な顔で不満を口にしたので、フェリシテは苦笑してしまった。アベルはフェリシテの言葉に大きく頷いて、静かになった。子供は素直だ。この頃の自分もこうだったのだろう。
「お姉ちゃんの属性は何? 僕はね、水なんだ」
 自分とは真反対にいるのだ。火と水、どちらが強いのだろう。水は火に強いという考えが浅はかであることを、フェリシテは知っている。幼い頃、近所で火事騒ぎがあったとき、大きな炎を消すのに大量の水を要した。必ずしも水が強いわけではない。
「フェリシテは火なんだ。お前と対になるな」
 アベルは今まで以上に嬉しそうな顔をすると、フェリシテの膝から降りて、腕を引いた。屋敷を案内したいらしい。そんなアベルの目線を知ってか、シモンは苦笑して頷いていた。