4:手に入れた力

「フェリシテさん、貴方に花魔女を倒す意思はありますか」
「倒す? 殺す、ということですか? それは、必要なんでしょうか」
 シモンの声はどこか硬く、憎しみがこめられているようだった。フェリシテは花魔女を憎んでいなかった。なぜ花魔女を倒す必要があるのか、理解できなかったのだ。
「これ以上花憑きという存在を増やしてはならないんですよ。このままは花憑きが増え続ければ、この国は滅亡へと追い込まれます。そうなる前に、彼女を始末する。彼女が消えれば、花も消える。そうすれば君は元の生活に戻れます。皆幸せになれるんです」
 幼子をあやすときのように、シモンはフェリシテに語りかけた。子ども扱いするなと怒りたいのに、声が出ない。みんなの幸せ、それがフェリシテの心を揺さぶっていた。
 フェリシテは、やはり自分はおかしいのだと思った。実感はあるのに、その考えが揺らがないのは、きっと継母に叩き込まれた意識からだろう。母と言う拠り所を失ったフェリシテにとって、継母が大きな存在であったことに変わりはない。継母が家事をしないことに不満はあっても、それについて父に抗議することはなかった。自分が家事をこなすことが当たり前なのだと、いつしか感じていた。
「私が役に立つのですか……いったい、何の役に? 何も出来ないのに」
「まずは貴方の力を知らなくてはいけませんね。まず、貴方が願ったのは何ですか?」
 シモンに言われてはじめて、フェリシテは自分の願いとは何か考えた。願いは必ずかなえられるのであれば、今自分が手にしたはずだ。それはいったいなんだろうか。
 変わったのは、自由になったこと。それはつまり。
「幸せ……自由になれば、幸せになれると思ったの」
「幸せですか。見たところ、身体に大きな変化はないので、侵食はさほど進んでいないでしょう。何か違和感はありますか? 寒いとか、喉が渇くとか」
 寒さはなかった。この屋敷はとても暖かい。それは主の人となりによってなのかもしれない。ただ、気になったことがある。
「そういえば、さっき紅茶を頂いたばかりなのに、喉が―――」
 さっき飲んだばかりなのに、喉は渇いていた。飲んだ直後からその違和感は感じていた。否、飲む前からだったのかもしれない。
「レベルは2ですね。能力については……ちょっとした検査をしてみましょうか」
「検査? 何をするのですか?」
「この石に触れてみてください。貴方の力が分かるかもしれません。力が強くないと反応しないのですが」
 彼が持っていたのは、白い石だった。大きさは掌に軽く収まるもので、その色に濁りはない。綺麗な石だと、フェリシテは思った。
 フェリシテが手にすると、その石は紅く輝いた。その様子を見たシモンが「火ですね」と呟く。
「貴方の属性は火です。花魔女だけを燃やすことが出来る幻惑の炎です」