15:諦めないで

 フェリシテたちが部屋へ戻った頃には、既にシモンが帰ってから時間が経っていて、そこには気を落としたセザールと、彼を何故か慰めているユーグがいた。
 フェリシテが首を傾げセザールに声をかけたが、返答は得られなかった。落ち込んだままのセザールをユーグに任せ、フェリシテとリアは部屋に戻ることにした。セザールの落ち込む姿を見るのは初めてだったので、少し気まずかったのだ。
「気にしないで、よくあることよ。ああ見えてセザールは繊細な心の持ち主なだけだから」
「一体何があったのかしら。シモンも黙って帰ってしまったようだし、喧嘩でもしたのかしら……」
 子供の心配をする母親のように、世話を焼きたがるフェリシテを見て、リアが口を綻ばせた。何故笑われたのか分からないフェリシテは、思わずリアを見つめる。
「子供じゃないんだから、放って置けばいいのよ」
 リアはフェリシテに比べて彼らとの付き合いが長い。だから、あれが喧嘩ではなく一方的な怒りであることを察知することができた。
(いつになったら大人になれるのかしら。あれでは子供同然だわ)
 肉体的には良い大人であるはずなのに、セザールはどこか子供のような言動をすることがある。アベルと喧嘩することもあるのだから、あながちフェリシテの心配が分からないでもない。しかしそれでもセザールは他人に八つ当たりしたり、何日も怒りを引きずったりはしない。明日になれば何事もなかったかのように接してくるだろう。
 けれどまだ来て間もないフェリシテには、その辺りの事情は分からないのだろう。性格上、放っておくということができないようで、リアの言葉を信じきれずにいるようだ。
「もしものときはユーグがどうにかするでしょう?」
 これは最終手段である。何故かユーグは信頼されていることが多い。セザールがあのように一方的な怒りを消化できずにいるときは、大抵ユーグが世話を焼く。良い体格のセザールを大人しくさせるなど、女であるリアやフェリシテには出来ないのだ。それが分かっているので、ユーグはセザールと行動を共にすることが多い。
「……そうね、彼に任せましょう」
 そこでやっと納得がいったように、フェリシテは頷いている。
 彼女もそのうち彼の性格を理解することができるだろう。セザールは分かりやすい性格をしているから、今回の件が収まれば直ぐ理解できるはずだ。
(それに比べて、シモンやユーグは分かりずらいわよね)
 リアでさえ、理解できない一面があるのだ。彼らはどこか似ているようだとも、リアは思う。ただ違うのは、ユーグは見た目によらず情に厚く、シモンは冷たいということ。
 もちろん全ての行動においてそうなわけではなかった。けれどリアはシモンを信用できていない。フェリシテのように潔く彼の知識を請うことが出来れば、もっと成長できるだろうに。
(次こそ、聞かなくっちゃ。この命は無駄にしないわ)
 密かにそう誓う。その先には何が待ち受けているのか、それは誰にも分からない。