13:高ぶる感情は

 特訓は数日間続いた。半日以上炎を出し続ける訓練から始まり、それが出来るようになれば、今度はそれに加え炎の大きさを一定に保つ訓練をした。半日以上出し続けることは出来ても、その炎の大きさを一定に保つのは至難の技だ。けれど歴代の“炎”の力の持ち主はこれを乗り越えてきたというから、フェリシテに出来ないものでもない。
 その2つをこなすだけに5日間を費やしたフェリシテは、自分の無力さを恨んだ。これでは花魔女になど勝てるはずが無かったのだ。
「そんな落ち込まないで。フェリシテは早い方だよ。5日でここまで集中力と忍耐力を高められたなら上出来だ」
 半日以上一定の大きさの炎を出し続ける訓練が無事に終わってからというもの、皆がお茶を嗜んでいる中、ずっとの片隅で肩を落としているフェリシテを見かねて、シモンが慰める。けれど失った時間を悔いているフェリシテには、効果がなかった。
「けれどこの5日の特訓の間に、3度も機会を逃したの。時間はないでしょう?」
 その分、シモンと長く共に過ごすことが出来て、それはそれで幸せだったのだが―――そんなことは本人に言えるはずも無く、フェリシテは顔を逸らしてしまった。
 ふと辺りを見渡す。ここに来て2日目で花魔女と対決してから、今日まで5日間特訓したので、既に7日が経過したことになる。父は今頃どうしているだろうか。父は自分の居場所を知っているのだろうか。広間に似たこの部屋は屋敷の1階で、中央に位置するらしい。この部屋は中庭に通じているので、天気のいい昼間は休憩としてアベルと中庭に出て、昼寝をしたりもしていた。今日も中庭には太陽の光が注がれていて、気持ちが良さそうだったのだが、夕方になってすっかり茜色に染まっている。
「もう今日は日もかげってきたから、花魔女は出ないだろう。特訓は疲れただろう? リアと先に湯浴みに行っておいで。早く休むといいよ」
 子供をあやすように額に口付けを落とし、微笑んでいる。これで本人は何の下心も無いつもりなのだから困るものだ。こちらはただあやしているだけの行為に反応して顔を赤らめてしまうというのに。
 高鳴る鼓動を押さえ込んで、リアと共に部屋に戻って着替えを手に取り、大浴場へと向かった。いつもの時間ならば他の侍女などにも会えるのに、今日に限っては少し早かったため、誰ともすれ違わなかった。夕方のうちは女性専用となっている大浴場だが、夜になると混浴になる。一応、着替えは別々にはなっているものの、混浴に入りたくない女性たちは、早めにここを訪れるのだ。そのため結局、夜に訪れるのは男たちだけというのが現状である。
「誰もいないって言うのも寂しいものなのねー。そう思わない、フェリシテ?」
「そうね、いつもにぎやかだもの」
 二人きりなのは寂しいけれど、人が多いのも困る。そんな他愛もない会話をしながら、皆の待つ部屋へと戻っていった。