11:役に立ちたい

「落ち込むことはないよ。初めてで彼女に術をあてることができたなら、上出来さ」
 あっという間の敗北に落ち込んでいたフェリシテを励ますのはシモンである。ちなみにリアはと言うと、花魔女に容易に術を押さえられたことが悔しかったのだろう―――後から慌てて合流しようとしたセザールやユーグに対して八つ当たりをし、挙句の果てにはセザールと喧嘩を始めたため、現在はユーグの仲介で話し合いの真っ最中である。どうやら合流が遅れたのはセザールの寝坊が原因らしく、セザールが一方的に怒られている状態のようだ。
「……私が弱いから、負けてしまったの。私は役立たずなのかもしれないわ」
「フェリシテは悪くないわ。第一、新人に倒せるほど弱い敵ではないの、あの女は」
 散々痛みつけられて倒れたセザールをユーグが介抱している中、リアはまだ納得のいかない様子で、行動やしぐさがやや乱暴なままである。ふと二人の方を見るとユーグが困った顔をしている。いつものことだとシモンがこっそり教えてくれたが、見かけによらず、セザールは大人しいものだ。
「そうだよ。今まで幾人もの仲間たちが戦って敗れている。1度や2度じゃない。そう簡単に倒せるなんて、誰も思ってないさ」
「でも―――このまま負けたままなんて、嫌だよ」
 倒せるわけがない、だから諦める―――そんなのはただの逃げでしかない。逃げるのは性に合わないのだ。限られた命なら、そして少しでも可能性が残されているのなら、精一杯努力したい。それはきっと、自分に与えられた使命のようなものなのだろうと、フェリシテは思った。先が見えなくても、努力をすることは悪いことではない。それはフェリシテが父親から唯一教わったこと。それだけを頼りに、フェリシテは生きてきた。
「特訓してみる? といっても、僕は君に術の発動方法を教えることしかできないけれど」
 それがいい―――上機嫌に頷くリアに背中を押されて、フェリシテは苦しげに微笑んだ。
 いつの間にかアベルが起きてきて、上機嫌なリアを見て目を丸くしている。フェリシテが仕事があったのだと伝えると、自分も行きたかったと不満そうな表情を浮かべた。
 次は一緒に行きましょうね、その為に特訓しましょう、そう言って頭を撫でてやると、すぐに機嫌を直したアベルは、昨日のようにフェリシテの腕を掴んで走り出す。
 慌てて追いかけてくるシモンに申し訳ないと思いながらも、フェリシテは今までにない時間を楽しんでいた。