[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
妄想少女と恋と。
モドル
|
ススム
|
モクジ
01
(何気ない日常にも、波乱は満ちているものかもしれない)
「あ、猫ちゃん……」
例えば、ふと顔を見上げると、どこにでもいるような黒猫が、道路脇で寝そべって、日向ぼっこをしていたとする。その黒猫は、実は猫の王国の王子で、人間の世界へ社会勉強にやってきた。野生的になるべくやってきたのだが、野良猫でも可愛がってくれる、人間の優しいお年寄りたちに餌をもらっているうちに、野生の気質をそがれ、危機感のない猫となってしまった。そんな王子を、猫の王国は追放しようとしているらしい。
―――実際にはそのような事実はないだろう。だが、そう思うだけで、何気ない日常が波乱に満ちたものになる。もし実際に、そんなことがあったら楽しいだろうと、有希夜はよく考えを巡らせていた。こうやって目に付く猫や犬や、時には道具などまで、妄想の種にして想像力を膨らませるのが有希夜の唯一の楽しみなのである。現実的に考えればそのようなことは思いつかないのだが、有希夜はとにかく妄想が好きな女子高生だ。女子高生では、そのような妄想癖は珍しくないのかもしれない。
けれど他の女子高生たちと圧倒的に違う点が1つだけある。それは、その妄想が自分以外のものに関する妄想であるという点だ。自分が関わるような妄想をすることは絶対にないのである。普通の女子高生であれば、どちらかといえば自分に関する妄想をすることが多いだろう。そこの違いが、有希夜の変人さを表しているといっても過言ではない。
有希夜は必要以上に他人と話さないのだが、唯一話すときというのが妄想を語るときである。それを見聞きしながら知らない振りをするクラスメイトたちの心の広さを、有希夜は気づいていない。
「有希夜! 今度、皆で集まろうって話してるんだけど、来ないか?」
いつもの通り妄想しながらも、無事に学校に着いた有希夜は、クラスに向かって直ぐに席に座った。すると、クラスでも明るく人気のある生徒の桜庭が声をかけてくる。今は12月の中旬で、もうすぐ終業式があり、冬休みがやってくる。1年生である有希夜たちにとっては、高校生になって初めての冬休みだ。あまり周囲と関係を持たない有希夜は、未だに知らない顔もある。本来なら一度くらい、参加すべきなのだろうが、あまり集まりが好きでない。今までもそれらを断っていたので、冬休みこそ集まりに参加してもらおうと意気込んでいるのだろう。熱心に色々なクラスメイトに声をかけていた生徒の1人だ。けれど今回も参加するつもりのない有希夜は、困り顔で考える振りをして隣を見た。生憎まだ来ていない。
(なんでこういうときに限って寝坊するのよ! 役立たず……)
そういえば先程、SNSで寝坊したと呟いていたのを思い出した。それでも近所に住む彼なら、すぐに学校に来れるのだ。ただし、朝食は抜きになるだろうが。
有希夜の隣の席の男は、小城という生徒だ。何の悪縁か、もともと出席番号順に座ったときに横になっていたこの男とは、今まで3回連続して隣の席である。これだけ近くなったこともあり、話すことも多かった。
「ねぇ、今回は小城は行くの? その集まりって」
いつもなら顔を出しているらしい隣の男は、有希夜が親しくしている数少ないクラスメイトの1人だ。他にも話す相手はいるが、有希夜と同様に集まりには参加しないことが多いようで、期待できない。1人でないのなら一度位行ってみてもいいだろうと思ったのだ。
有希夜の思惑を知らない桜庭は一瞬訝しげに眉を潜めたが、すぐにいつも通りの表情になって、手に持っていた名簿のような用紙を見た。クラスメイトで誰が参加するのか確認しているのだろう。どうやら行けない理由まで書かれているらしい。丁寧な仕事だ。
「小城? いや、先約があるからって今回はこない。ほら、有希夜っていつも来ないだろう? たまには来て欲しいって皆で話しててさ」
思わず顔を歪ませた。来たくない人間は放っておけば良いという精神の下、自分が集まりの主導権を握った際も、来たければ何時に何処に集合という、かなり適当な集め方をした有希夜にとって、まるで来るのが当然かのような物言いは好ましくなかった。
否、きっと来るのが当然だということではなく、単にもっと仲良くしたいという意味なのだろう。けれど一度は来るのが当然だという、その考え方は自分とは合わないと思ってしまう。基本的に人に意見を押し付けることを、有希夜は好まない。ちなみに彼が有希夜を呼び捨てにするのは、単に特別なことではない。有希夜は苗字で呼ばれるのを好まないので、新学期の自己紹介で、名前で呼んでほしいといっていたからだ。クラスメイトの全員が呼び捨てで呼ぶわけではないが、呼び捨てにする生徒も少なくないので、それは気にしていなかった。けれどそれとこれは別の話である。
「ごめんね。今回は遠慮しておくわ。家の手伝いもあるし」
仄かに笑みを浮かばせて、控えめに声を出す。断るときは控えめが一番だ。押されたら困ったように断りを入れ続ける。時には家のことを出すのも良い。少なくとも有希夜はそれまでの経験で断れなかったことはない。元々あまりそういう集まりに、参加したがらないということもあるのかもしれないが。
他の子たちも、こんなに勧誘されているのだろうか。有希夜はあまり交友関係が深くないので、周囲にそのような話をすることはない。別段周囲を避けているわけではないが、基本的に一匹狼の状態である。強いていうならば、よく小城を連れまわす程度だ。それも移動教室の際くらいで、そのほかは独りが多かった。
「そうか……残念だな。みんな楽しみにしていたんだけど―――」
「有希夜! 先生が呼んでるぞ、早く来いよ
珍しく話を先へのばされそうになった瞬間、よく知る低い声が耳に届いた。
モドル
|
ススム
|
モクジ