プロローグ

 この世には“善”と“悪”がある。

 多くの人は“善”の世の中しか知らず、“善”の中の僅かな“悪”の要素を“真の悪”だと思っている。しかし現実はそうではない。

 世間には“情報屋”と呼ばれる者たちが存在している。彼らは依頼された情報を収集することに長けており、依頼遂行のためであれば何処へでも赴く。交通手段や通信手段が発達した現代では、遠方で調査を行うことも少なくはない。

 彼らの多くは若者で、世間では“優秀”と評される頭脳の持ち主だ。学業と両立している者もいれば、有名な企業に勤めるものもいる。しかし優秀でありながら“悪”でのみ活動する若者がいないわけではなかった。

 少女は目の前に立つ自らの主を見つめながら、この先狭まっていくであろう自らの道を案じていた。けれど残された“善”への道を選ぼうとはせず、真っ直ぐに主の手を取った。

 “善”を嫌っているわけでも、“悪”を好んでいるわけでもなかったが、赤子のときから世話になった主を容易に見捨てるなど、少女にはできない。少女はただ真っ直ぐ前を見つめている。その先には闇が続いている。

 少女は歩き出す。今日も、明日もきっと仕事をするのだろう。

―――いつの日か、普通の生活が出来る日を夢見ながら。

- continue -

2014-06-09

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