エピローグ
それからイルハでは、相変わらず花魔女による被害は拡大していったが、周囲にどれだけ花憑きたちが蔑まれようと、セザールの生まれ故郷の田舎町だけは彼らを受け入れた。きっちり働かせる代わりに、最期まで見届け続けている。
悲しみがないわけではない。けれどどこかで受け入れる人間がいなければ、彼らの存在は悪となる。その力は生かせるものだというのが、町長の考えだった。現に町へやってきた彼らは戦いから身を引いて、町のために力を使っていた。彼らが町へ集まっていき、やがて花魔女と対立するものがいなくなれば、困るのは彼らではなく残された者たちだろう。けれど彼らは町から離れようとはしなかった。
「フェリシテ、今日はもう上がりな。ノルマはクリアしただろう? 何枚織る気なんだい」
町にやってきてから、フェリシテは織物の仕事をしていた。おばさんは丁寧に仕事を教えてくれ、すぐに技術は上達していった。
「だっておばさん、アベルがどんどん服を汚してしまうんだもの。早く仕上げなくっちゃ」
旦那に怒られるのはあたしなんだよと、おばさんが笑っている。おばさんの言う旦那とはセザールのことだ。正式なものではないけれど、この町ではそれが普通だった。書類など必要ない、心の問題だというのが町長の口癖らしい。フェリシテは今までにないくらい穏やかな日々に、心が安らいでいた。
「フェリシテ! 今日は早く終わるんじゃなかったのか? おばさんに止められたら素直に帰って来いって言っただろう」
「ほら、旦那が来ちまったじゃないか。あとはあたしたちでやってやるから、今日くらい休んでくれ。町長に休みもやらんのかって怒られるのはあたしたちなんだからね!」
追い出されるように急かされて、フェリシテは仕事場を逃げ出した。外ではセザールやアモン、リアにユーグが揃っている。
「行こうか。―――シモンのところへ」
あれから、ユーグたちが追うように町へ来て、シモンは花憑きの支援を止めたという。周囲から花憑きが夜逃げしなければならないようなことをさせているのかと言われたらしい。少し申し訳ないとは思ったものの、これが彼らにとって最善だったのかもしれない。
彼から連絡が来たのは屋敷を飛び出してから5ヶ月になるが、今回が初めてのことだ。それもいきなり結婚の報告なのだから、驚きを通り越して呆れてしまいそうである。
「驚くかしら、シモンたち。入れてもらえると思う?」
「周りの住民は俺たちのことを忘れてるんじゃないのか。問題なく入れてもらえるだろう」
リアの嬉々とした声に、セザールが答える。その様子をユーグが微笑みながら見つめていた。
シモンたちにとって何が幸せなのかは分からない。けれど離れたからこそ、分かることがある。
―――私たちはやはりただの友人だったのだと。そして自分の真の想い人はセザールであるのだと。
悲しみがないわけではない。けれどどこかで受け入れる人間がいなければ、彼らの存在は悪となる。その力は生かせるものだというのが、町長の考えだった。現に町へやってきた彼らは戦いから身を引いて、町のために力を使っていた。彼らが町へ集まっていき、やがて花魔女と対立するものがいなくなれば、困るのは彼らではなく残された者たちだろう。けれど彼らは町から離れようとはしなかった。
「フェリシテ、今日はもう上がりな。ノルマはクリアしただろう? 何枚織る気なんだい」
町にやってきてから、フェリシテは織物の仕事をしていた。おばさんは丁寧に仕事を教えてくれ、すぐに技術は上達していった。
「だっておばさん、アベルがどんどん服を汚してしまうんだもの。早く仕上げなくっちゃ」
旦那に怒られるのはあたしなんだよと、おばさんが笑っている。おばさんの言う旦那とはセザールのことだ。正式なものではないけれど、この町ではそれが普通だった。書類など必要ない、心の問題だというのが町長の口癖らしい。フェリシテは今までにないくらい穏やかな日々に、心が安らいでいた。
「フェリシテ! 今日は早く終わるんじゃなかったのか? おばさんに止められたら素直に帰って来いって言っただろう」
「ほら、旦那が来ちまったじゃないか。あとはあたしたちでやってやるから、今日くらい休んでくれ。町長に休みもやらんのかって怒られるのはあたしたちなんだからね!」
追い出されるように急かされて、フェリシテは仕事場を逃げ出した。外ではセザールやアモン、リアにユーグが揃っている。
「行こうか。―――シモンのところへ」
あれから、ユーグたちが追うように町へ来て、シモンは花憑きの支援を止めたという。周囲から花憑きが夜逃げしなければならないようなことをさせているのかと言われたらしい。少し申し訳ないとは思ったものの、これが彼らにとって最善だったのかもしれない。
彼から連絡が来たのは屋敷を飛び出してから5ヶ月になるが、今回が初めてのことだ。それもいきなり結婚の報告なのだから、驚きを通り越して呆れてしまいそうである。
「驚くかしら、シモンたち。入れてもらえると思う?」
「周りの住民は俺たちのことを忘れてるんじゃないのか。問題なく入れてもらえるだろう」
リアの嬉々とした声に、セザールが答える。その様子をユーグが微笑みながら見つめていた。
シモンたちにとって何が幸せなのかは分からない。けれど離れたからこそ、分かることがある。
―――私たちはやはりただの友人だったのだと。そして自分の真の想い人はセザールであるのだと。