マックスの相手をするのは、想像以上に体力を消費するものだった。
いつものことではあるが、大型犬のマックスは、運動する量も多い。日々の散歩では足りないのか、よく庭に出て遊びたがるので、散歩のルートを見直す必要があるかもしれない。栞那は気軽に外に出してもらえない身のため、散歩自体は手の開いている使用人に交代でお願いしているが、人のほうが先に疲れてしまうらしい。
雨が降ってきて、少し雨宿りしていると、段々と雨は強くなっていった。しかしマックスはまだ遊び足りないらしく、嬉しそうに尻尾を振ったまま、栞那と庭を交互に眺めている。
「マックス、もう遊べないの。ほら、雨がたくさん降っているでしょう? お部屋で休みましょう」
そういってリードを引っ張るが、全く動こうとしない。小柄な犬なら抱き上げて部屋に戻ることも出来るが、マックスのように大きな犬は、栞那には抱えきれそうになかった。
そんなやり取りを繰り返していると、静貴がリードを手にとって、マックスを優しくなだめた。栞那は静貴にリードを預けるとその場にしゃがみこむ。普段激しい運動などしない栞那にとって、マックスとの遊びはかなり体力を消耗する出来事だった。
「遊び足りないんだろうね。身体が大きくたって、心はやんちゃ坊主なんだろう」
栞那たちがもう庭に出ないと分かったのか、落ち込んだ様子でマックスが部屋へと戻っていく。慌てて濡れた身体をタオルで拭き、足も綺麗にして、ドアを閉める。そしてリードを外すと、マックスは今度は部屋の中で遊びたいのか、元気良く遊びに誘ってくる。
「お部屋の中ではもう遊べないの。私疲れちゃった……」
栞那がマックスを呼びながら自室の方向へ歩き出すと、マックスは再び落ち込んだ様子で、栞那の側に寄った。
「そんなあからさまにガッカリしなくてもいいでしょう?」
苦笑しながらマックスをなだめようと優しくなでるものの、やはりまだ遊び足らないようだ。けれど雨が降っている限りは外に出れないし、部屋の中ではあまり遊べない。
マックスもそれは何となく察しているようだった。今までに何度か物を落として壊し、静貴に叱られた経験があるからだ。マックスが静貴のことを好ましく思っていなかったのは、いつも遊んでいると怒りに来る人だったから、ということらしい。
「また晴れたら、遊ぼうか。」
今ではすっかり静貴にも懐くようになったマックスは、元気良く返事をする。
「そうだね。あ、さっき東條さんが部屋に来て、“親猫”の話を聞かれたけれど、話したの? 秘密にするって言ってたのに」
忘れぬうちにと、栞那がたずねると、静貴は不思議そうな表情で質問を返す。
「東條さんって、父から?」
親子なのだから苗字は同じだろう。栞那は頷きながら肯定した。すると、静貴は少し複雑そうな表情をしていた。
「……どうかした?」
「いや、なんでもない。ちょっと調べものがあるから、今日はここまで。マックス、部屋で大人しくしてるんだよ」
栞那の言葉に、静貴はいつもの笑顔でそう言うと、マックスを優しくなでて、自分の部屋の方向へ歩いていった。
2016-03-13