11

「……我が家ではお前を守りきれないかもしれない。忘れないでおくれ、お前を捨てるわけではない」

 食事を共に取った後、早急に東條家へ移らなければならないということで、必要最低限の衣服などを買ってもらい、そのまま東條家へ向かった。

 その間、会話を重ねることでわかったのは、祖父はかなりの口下手であるということ。悪気もないのに相手を怖がらせてしまうことが多いようだ。そのため、普段は無口なままだという。

 東條家へ向かう前に寄った美容院では、付いていこうとするのを運転手に止められる事態にまで陥った。以前同じ美容院を栞那の母が利用していたそうで、その際に共に入店したことがあり、その際にかなり怖がらせてしまったのだという。栞那が直ぐ終わりますから、と説得し、祖父には終わるまで近くにあるという懇意にしている喫茶店でくつろいでもらうことにして、栞那は美容院へ行くことができた。

 栞那の髪は艶やかな漆黒の色をしている。美容院で切りそろえてもらったお陰で、見栄えがかなり良くなった。腰辺りまである髪は綺麗にお団子結びにされている。もともとストレートな髪質の為、編みこみなどは上手くいかないことが多いので、その代わりに、祖父の用意してくれた髪飾りを使って華やかにし てもらった。

「……綺麗だな。やはりこの髪型が、一番似合う」

 お団子結びの髪型を勧めてくれたのは、祖父だ。栞那の母も栞那のような髪質で、髪型には困っていたという。祖父の屋敷にはもう髪を結うのに使えそうな道具はなかったので、切りそろえる際に髪型もセットしてもらうことになったのだ。

「おじい様」

 同じ屋根の下で暮らせないことが、そんなに悲しいのだろうか、祖父の横顔は今朝に比べて暗いようだった。

 まるで一生の別れのようだ―――まだ結末が分からないというのに、戦いを挑む前から諦めているのだろうか。

「全てが終わったら、戻ってきます。だから、諦めないで下さいね」

 栞那が身を寄せていた組織は情報の売買が主なので、それ以外の分野においては疎い。東條家がどのような組織を束ねているのかは知らないが、正面から衝突したとしても、あの組織が勝てるとは思えない。

「そうだな。お前が再び奪われないよう、最善を尽くそう。全てが終わったら、お前の母のことを、ゆっくりと話してやる」

 母。それは栞那にとってあってないようなものだった。家族すらなく、組織が我が家だった栞那にとって、母親という存在がどういうものなのかは、まだ分からない。

 けれど祖父と過ごす時間が、今までよりずっと穏やかな時間であることを感じていた。

2014-09-20

良ければこの作品へ感想をお寄せください。