書き出し.meより転載

「あなたのこと、好きでした」


「あなたのこと、好きでした」

 叶わない想いだと知っていても、忘れることはできなかった。

 返ってくる答えが分かっていても、どうしても伝えたくて。

「俺は・・・・・・」

「知っています。それでも、あなたのことが好きでした」

 初めて会ったときには、貴方は私の手の届かないところにいて、隣にはいつも、誰もが認める女性がいた。私が叶うはずもなく、それでも諦められなかった。―――ただ、伝えれば諦めがつくと思ったから。

 諦められると、そう、信じていた。

「それだけ、伝えたかったんです。ごめんなさい」

 これで諦めがつく。そう思って後ろを振り返った私を、貴方が止めた。

「待てよ。自分だけ言って帰るのか?」

 聞きたくないの。このまま綺麗な想いのまま、貴方を忘れたい。嫌いになりたくはないから。

 私を止める貴方の手の力は、痛いほど強かった。

「簡単に諦めるなよ。そうやって諦めてくと、いつか絶対後悔する。―――次は最初から諦めたり、するなよ」

 何故―――この人は全て分かっているんだろう。

 何もかも気づいていて、ずっと影ながら応援してくれていたのだろうか。応えることができないのに、わざわざ私の言葉を聞きに来てくれたのだろうか。

「まだ、諦めてません。まだ、時間はあるでしょう?」

「―――せいぜい頑張るんだな。俺は手強いぞ?」

 ふざけたように笑う彼の目は真剣で。

 たとえ叶わない想いでもいい、諦めずに挑戦してみよう。

 恋だけが全てじゃない。今まで諦めていたこと全て、挑戦してみよう。

「ありがとうございます」

 この人には適わない。きっとずっと、忘れられないのだろう。
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