「昔はこんなに小さかったのにな」
会うたびに言われるその言葉が、あたしは嫌いだった。
別に特に背が高かったわけでも、低かったわけでもない。今も昔も平均身長で、慎重に関して何か言われることが嫌だったわけではない。ただ幼馴染に毎回言われるその言葉が、段々と嫌いになっていった。
隣に住んでいた3つ上の幼馴染は、既に社会人だ。あたしが大学生になって独り暮らしするようになると、会うことも顔を合わせることも少なくなった。長期休暇で久しぶりの実家、そんなときに限って休暇を取ってきて、あたしの実家に顔を出す。幼馴染も今は独り暮らしをしていて、滅多に実家には帰っていなかったはずなのに。
「いい加減にしてよ! あなたに会うために帰ってきてるわけじゃないの!」
実家のリビングでくつろぐ彼に、あたしは容赦なく蹴りを入れた。といっても運動部でもなかったあたしの蹴りを食らったところで、彼は痛くも痒くもない。
「いつの間にそんなに俺を毛嫌いするようになったんだ? ずっと避けてただろ」
否定は出来なかった。
確かに高校に入ってから、あたしは彼を極力避けていた。彼に恋人がいることを知っていたから。その女性と、何年も関係が続いていることを知ってしまったからだった。
叶わぬ恋―――そんなものは物語の中だけだと思っていたけれど、実際に起こったら空しいだけだ。それが結局叶うなんて、そんな良い話はない。
「あたりまえでしょ。もう子供じゃないんだから」
子供ではないから―――中学の頃のように、彼に憧れて甘えることなどできない。心の中に残っている想いを、打ち明けたところで叶うことはないだろう。
「だから何? もう会わないって? ……彼氏いるのかよ」
「いなかったら何だって言うの。関係ないでしょ」
振り返り、部屋に戻ろう。このまま一緒にいたら、忘れられそうになかった。
「昔は正直だったのに、いつのまに我慢するようになったんだよ。我慢するなよ。いつまで待っていればいいんだ、俺は?」
肩の荷が下りた気がした。聞きたいことは山ほどある。けれど嬉しさがこみ上げてきて、彼の胸に飛び込んだ。涙が涸れたら、今度こそ笑顔になれるだろう。