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 祖父と別れ、東條家へ向かう車内で、祖父は出来る限りの思い出を語ってくれた。
 母も父も知らない栞那には、どれも実感できるものではなかったが、祖父の嬉しそうな表情を見て和やかな気分になる一方で、この唯一の肉親との別れを悔やんでいた。

 今まで一度も、自分の出自に疑問を抱かなかったわけではない。栞那を引き取ったのは主の父であった。その当時の事情を一切伝えることなく亡くなったので、栞那の出自は分からないまま月日が過ぎてしまったのである。

 けれど本当にそうだろうかと、ふと思い返す。栞那の情報だけ伝えずに、あの主が亡くなったのだろうか。なくなるまでの1年は病状が悪化する一方で、あまり楽な日々ではなかっただろうが、主には情報を書き留める手帳があったはずである。年々増えていくそれらは、月日が経ったものから必要なものだけ書き写され、約5年後に手帳は焼却処分される。主が栞那の情報をあえて書き写さなかったのか、書き写した媒体ごと処分したのか。

(あの人がずっと私を閉じ込めさせたがっていたのは、出自に関係するのかしら)

 今の主は栞那が働くことを嫌悪していた。ずっとそれは栞那が未成年で女だからかと思っていたが、それだけではなかったのかもしれない。情報屋は男が多い。それは体力面で、逃げやすいという理由からだ。だから総じて運動神経の良い男たちが、栞那の組織には多かった。とはいえ、見た目からは区別がつかない。そういう男たちが集まって、情報を集めている組織になっていった。

「栞那さん、知りたいですか? あなたの組織の謎」

 いつの間にか栞那の座るソファーの隣に腰掛けた静貴が、穏やかな口調で問いかけてくる。東條家へ到着後、まだ部屋の用意ができていないからと、客間で寛いでいた栞那だが、彼が直ぐ近くにいることに気がついていなかったので、心底驚いた。

「謎? ……どういうことでしょうか」

「なぜ貴方意外に、あの組織には女性がいないと思いますか? 他の情報屋では、女性の情報屋も存在します。女性ならではの情報の集め方もありますからね」

 他の情報屋では、女性の情報屋も存在している。

 栞那が聞いてきた“常識”とはかけ離れていた。主は女の情報屋は殆どいないのだと語っていた。栞那のいた組織のように、1人しかいない組織も多いのだと。

「あの組織のように、ほとんど女性がいない情報屋は今や珍しいものなんですよ。ここから先は憶測も含みますが、ほぼ間違えないでしょう。その理由はただ一つです」

 静貴はソファーの前の机に置いてあった、一冊のアルバムを手に取った。

 慣れた手つきでそれを開くと、ある一枚の写真を手に取る。少年と、その母親らしき女性が写っていた。

「―――先代の妻、つまり今の主の母親は、彼が幼い頃に亡くなっています。調査に失敗したことが原因です」

 調査が相手に気づかれてしまえば、調査員の身の安全は保障できない。失敗して亡くなったという事実は、知られてはいけない情報を掴んでしまった彼女を葬り去ったということなのだろう。

2014-09-27

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