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 遠藤家は洋風の豪邸で、内装は外国の城のようだった。外装は城という雰囲気ではないものの、周囲の家に比べてもかなりお洒落だ。栞那の感性での話なので、他の人々が見ればどれも変わらないのかも知れないが、“仕事”で多くの屋敷に訪れてきた栞那でさえ驚くほど、見事な佇まいである。

「お嬢様、こちらをお召しください。そのままではお休みになれないでしょう」

 どこかで見たことのあるような、黒いワンピースにエプロンという服装をした使用人らしき女性が、笑顔で籠を差し出してきた。中には夜着の他に、翌日の為であろう洋服なども全て入っている。

「お気に召していただけましたか? 最近のお若い方の洋服は露出(ろしゅつ)の多いものばかりですが、大旦那様はそのような洋服を好まれないものですから……」

「ありがとうございます」

 栞那は自分で洋服を選んだことがない。常に決められた洋服を身につけるだけだった。けれどやはり、露出の多いものは好まない。用意された服は露出が少なめで、女性らしいワンピースだった。肩などの露出は控えめに、けれど丈は長すぎず、膝くらいである。きっとこれが限界だったのだろう。それでも若い栞那のことを考えて、程々のデザインを選んでくれたのだ。

「いいえ、お礼は大旦那様に言って差し上げてください。そのワンピースを最初手に取ったのは、大旦那様なんですよ。わたくしどもも意見は申し上げましたが、最終的に選んだのは大旦那様です。お嬢様に似合うだろう、と」

「私に……?」

 彼女は笑顔で頷くと、それでは失礼致します、と言うなり部屋を去っていった。

 広い部屋にはシンプルな机と椅子と、備え付けのクローゼット、本棚、そして大きなベッドがある。ベッドの近くにはお洒落なランプが置かれていて、その近くに小さな時計も置かれている。

 ベッドで横になりながら、栞那はずっと祖父のことを考えていた。




「おはようございます、おじい様」

 結局考え付かれて眠ってしまったらしい栞那だったが、それでもいつもよりも早く眠ったためか、朝は問題なく起きることができた。昨晩の使用人が起こしに来たときには既に着替えも済んでいて、驚かれてしまったほどだ。

「そのワンピース、似合っているな」

「選んで、下さったと伺いました。……ありがとうございます」

 一瞬例の使用人を睨むと、照れ隠しに顔を背けて、頷くと、それから二人で静かに食事をとった。使用人の方々は別々で取るのだと言って聞いてもらえなかったので、少し寂しいながらも、祖父との時間は新鮮だった。

2014-09-06

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